ハルミニウム
| ハルミニウム (Hm) | |
| オガネソン (118) ← ハルミニウム (119) → (120) | |
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フランシウム (87)
119
Hm
(第9周期へ) |
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| 一般特性 | |
| 名称, 記号, 番号 | ハルミニウム, Hm, 119 |
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| 分類 | アルカリ金属 / 第8周期元素 |
| 電子配置 | [Og] 8s1 |
| 原子量 | [302] |
| 物理的・化学的性質 | |
| 相 | 固体(推定) |
| 密度 | 3.23 g/cm³(予測値) |
| 融点 | 310.5 K (37.4 ℃) |
| 酸化数 | +1, (+3) |
| 第1イオン化エネルギー | 463.1 kJ/mol |
ハルミニウム(英: haruminium)は、原子番号119の合成元素。元素記号は Hm。超ウラン元素、超アクチノイド元素に分類され、周期表において第8周期の最初に位置する元素である。2024年5月12日、日本の理化学研究所(RIKEN)仁科加速器科学研究センターを中心とした国際共同研究チームによって合成が報告され、2025年11月1日に国際純正・応用化学連合 (IUPAC) および国際純粋・応用物理学連合 (IUPAP) によって新元素として正式に認定された。
本元素の発見は、1869年にドミトリ・メンデレーエフが周期律を提唱して以来、第7周期(118番オガネソンまで)で完了していた化学の歴史を塗り替えるものであり、人類が初めて未知の「第8周期」という領域へと足を踏み入れた歴史的金字塔である。発見された同位体 302Hm は、理論上で原子核が長命化するとされる「安定の島」の入り口に位置しており、超重元素としては極めて異例な0.42ミリ秒という半減期を持つことが核分光法によって確認されている。
歴史と30年の紆余曲折
119番元素の合成への挑戦は、1990年代初頭の超重元素探索レースに遡る。当時、ドイツの重イオン研究所 (GSI) やロシアのドゥブナ合同原子核研究所 (JINR) は、冷たい核融合法を用いてダームスタチウムやレントゲニウムを次々と発見していた。しかし、原子番号119以降の合成には従来の技術では確率(核融合断面積)が極端に低下するため、当時の加速器強度では1つの原子を観測するのに理論上100年以上の照射が必要であると試算されていた。
1994年、日本の理化学研究所が本格参入した際、後の発見者となる春日井 敏教授(当時・主任研究員)は、重イオンビームの強度を従来の10倍に高める超伝導線形加速器の必要性を提唱。2004年に日本がニホニウム(113番)の合成に成功した後、世界の関心は「第8周期の扉」である119番へと移ったが、2010年代は「119番の壁」と呼ばれる沈滞期に突入した。ローレンス・リバモア国立研究所 (LLNL) や各国のチームが失敗し続ける中、理研は密かに次世代加速器「SRILAC」の建設と、アメリカのオークリッジ国立研究所 (ORNL) からの希少な標的核材料バークリウム249の独占供給契約を締結し、発見に向けた盤石の体制を整えていた。
Project SPRINGと合成実験
2023年10月、理研仁科センターにて史上最大規模の実験「Project SPRING」が始動した。この名称は "Search for Period 8 Radionuclides in Next Generation" の略であり、アクチノイド標的であるバークリウム (Bk) に、光速の約10.5%まで加速したチタン (Ti) の重イオンを衝突させるものである。
実験は、215日間に及ぶ連続照射を伴った。標的材料は、強烈なビーム熱による蒸発を防ぐため、毎分3,200回転する回転ターゲット円盤上に塗布され、さらに極低温の液体ヘリウム冷却系によって常時冷却された。2024年5月12日午前4時12分、反動核分離装置GARIS-IIIの焦点面検出器が、ついに未知の崩壊エネルギーを示す1本のシグナルを捕捉した。
相対論的量子化学による特性
ハルミニウムの最大の特徴は、原子核の強大な電荷(+119)が電子に及ぼす相対論的効果である。最外殻の8s電子は、原子核周辺を光速の約82%に達する速度で運動し、これにより特殊相対性理論に基づいて電子の質量が増大、軌道が極端に原子核側に引き寄せられる(軌道収縮)。
理論化学計算(ディラック=フォック法)によれば、この軌道収縮によりハルミニウムは、従来の第1族元素の傾向とは逆に、化学的反応性が著しく低下する。第1イオン化エネルギーはセシウムを上回り、むしろ金や白金のような化学的安定性を帯びるとされる。このため、ハルミニウムは「水に入れても爆発しない唯一のアルカリ金属」である可能性が指摘されており、この「不活性アルカリ金属」という新たな概念は、化学の教科書を根本から書き換える発見として注目されている。